相続財産管理人の選任が必要な場合(改正 令和5年4月1日施行)
令和5年4月1日より改正された民法が施行されており、民法第940条は以下のとおり変更されました。
民法第940条
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
改正前は、最後に相続放棄をした相続人に遺産を管理義務がありましたが、今回の改正により管理義務者が明確にされ、相続財産を現に占有している者にのみ遺産の管理義務があり、占有していない他の相続放棄した相続人は管理義務を負わないこととなりました。
また、今回の改正により従来の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」へと名称が変更となり、官報公告の方法が変更され、最低必要な期間が短縮されることとなりました。
さらに、民法897条の2が創設され、相続財産の清算を目的とせず、保存行為のための「相続財産管理人」制度が新たにできました。
相続財産管理人の選任が必要な場合
相続において、相続財産管理人を選任しなければならないケースがあります。相続財産管理人は、相続財産を調べて、管理する役割を担う人で、相続人の存在がはっきりしない場合や、相続人全員が相続放棄した際に選任する必要があります。
・目次
相続財産管理人について
相続財産管理人は、遺産の管理と清算を担う人材です。冒頭で触れたとおり、相続人の存在がはっきりしないときや、すべての相続人が相続を放棄した場合には、この相続財産管理人が選任されます。
通常、遺言状があり、その執行者が存在していれば、たとえ相続人がいない場合でも、贈与を受ける人が相続財産管理人を選ぶ必要はありません。
また、遺言執行者が存在していなくても、遺贈を受ける人は家庭裁判所に対して遺言執行者を選任するよう申し立てれば、遺贈を受けることが可能です。
相続財産管理人は、申し立てがあった場合に家庭裁判所が選任します。家庭裁判所は申し立てについて検討したうえで、選任の必要がある場合に相続財産管理人を選任します。相続財産管理人に選任されるのは、それぞれの事案に強みを持つ司法書士や弁護士です。
相続財産管理人を選任しなければならないケース
相続財産管理人を選任しなければならないのは、以下のようなケースです。
相続人が存在しない
相続人が存在しない場合やはっきりしない場合は、相続財産管理人を選任する必要があることはすでに触れたとおりです。このようなケースでは、被相続人の債権者が債権を回収できなくなってしまうことが、相続財産管理人が必要な理由です。ただし、被相続人に遺産がほとんどない場合は、相続財産管理人が選任されることはあまりありません。
すべての相続人が相続放棄
すべての相続人が相続を放棄してしまうと、財産を管理する人がまったくいなくなってしまうので、債権者への弁済などの仕事を行う人が必要です。そのために相続財産管理人が選任されます。
相続財産管理人の選任を申し立てられる人
相続財産管理人の選任を申し立てられるのは、被相続人の債権者や特別縁故者などの「利害関係人」と「検察官」だけです。
申し立てには、申立書、財産目録のほか、被相続人、被相続人の父母、子どもの出生から亡くなるまでの間の戸籍謄本、被相続人の直系尊属の死亡が確認できる戸籍謄本など、数多くの書類が必要になります。したがって、利害関係人である場合でも、財産管理に明るい司法書士や弁護士に手続きを依頼するのが普通です。
相続財産管理人の役割
相続財産管理人は、以下のような役割を持っています。
相続財産の管理
相続財産管理人に選任された人は、相続財産について、その内容を精査し、目録を作ります。そして、家賃などを含む、賃借料などの財産の回収、すべての相続財産の管理、保存や、場合によっては裁判所に許可を申請して財産を換金するなどの仕事をこなします。
相続財産管理人の選任の公告
相続財産管理人が選任されたことを官報で公告をします。
請求申出の公告と弁済
請求申出の公告は、選任の公告がされてから2ヶ月が経過したが相続人が見つからない場合に、相続債権者・受遺者に対して請求の申し出を行うよう公告を出します。
請求申出の公告をするのと同時に、知れたる債権者や受遺者に対して、格別に申出をすべきことを催告します。
相続債権者や受遺者から申し出があった場合は、弁済も行います。
相続人捜索の公告
相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告をしたが、相続人が見つからなかった場合に相続人検索の公告を行います。これは公告としては最後の公告となり、6ヶ月の期間内に申し出がなければ、相続人の権利が失われ、相続人がいないことが確定します。
特別縁故者への財産分与
相続人捜索の公告後、相続人が見つからなかった場合、被相続人と特別な関係にあった人(特別縁故者)からの請求があった場合に、財産を分与することがあります。特別縁故者は、たとえば、被相続人と事実上の親子関係にあった人や被相続人の介護を担当した人などが該当します。
残余財産の国庫への引継ぎ
相続人がいないことが確定して、特別縁故者の申立がない、又は分与しないことが決定したら被相続人の残った財産は国庫に引き継がれることとなります。